アサガオは夜に花開かない。
静かに煌めく星々も、熱を攫う風も、一際輝く満月も。彼女は識(し)らない。
だから、その夜は違ったんだろう。
微笑んだ少女の左手は白百合で、右手は彼岸花の様相を呈していた。
彼女は何を想って自身を朱く染めるのか……。
…
ウミネコの声で目を覚ました。
陽射しの射し込む車窓から外を見れば、前日の雨で増水した海上を飛沫を上げながら列車が進んでいた。
夏の陽射しは白く、列車の軌跡を辿る曳波(ひきなみ)も白い。
空は青、藍、碧。
前方にはウミネコの集う穏やかな離島がより一層、緑緑(あおあお)と浮かんでいた。
心は躍っているだろうか。それとも不安に圧し潰されそうか。
ただ一つ、解(わか)っていることは。
あの島で、夜を見ない生活が始まるんだ。
雨降る夜の夢(きおく)を思い出す為に。
――アサガオは夜(アイ)を識(し)らない。
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